緊急時にどれぐらいの距離で止まれるのか。

空想距離?

「空走」距離です。

まずは用語の説明から。
目次をクリック・タップで移動できます。
距離を見たい方は、目次の「速度と停止距離(目安)」をご覧ください。
空走距離。
危険を察知した後、体が反応してブレーキを操作。
その後ブレーキが効き始めます。
危険察知からブレーキが効き始めるまでの時間を「反応時間」「空走時間」と言います。
車の場合、0.7~0.8秒と言われています。
※何かに気を取られていたりすれば反応時間はもっと長くなります。
反応時間の間に進む距離が「空走距離」です。
スピードが上がれば上がるほど空走距離は長くなり、
・反応時間(秒) × バイクのスピード(m/秒) で表されます。
空走距離は速度に比例し、
スピードが2倍になれば、空走距離は2倍。
スピードが3倍になれば、空走距離は3倍となります。

バイクの場合、
ブレーキレバーに指をかけていると、僅かに反応時間が短くなる可能性が高いです。
見通しの悪い路地や駐車車両の横を通るときに、ブレーキレバーに指をかけて、ブレーキレバー・ブレーキペダル共に遊びを取っておく。
こういったことを習慣づけておけば、イザというときに ほんの少し早く止まれる可能性があります。
制動距離。
ブレーキが効き始めてから停止するまでの距離が制動距離です。
完璧な距離を出すことは難しいのですが、一般的に、
・減速前のスピード(km/時)の2乗 ÷ 254 × 摩擦係数 で計算されます。
制動距離は速度の2乗に比例し、
スピードが2倍になれば、制動距離は4倍。
スピードが3倍になれば、制動距離は9倍となります。
※ABS搭載車は距離が短くなる可能性が高いです。
摩擦係数。
タイヤと路面の摩擦力と、垂直にかかる圧力との比が摩擦係数です。

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ざっくり言うと、滑りやすさです。
数値が低いほど滑りやすくなります。
乾燥した道路 | 0.7~0.9 |
濡れた道路 | 0.2~0.9 |
雪 | 0.2~0.35 |
凍結 | 0.06~0.2 |
一般的に、
乾いた道路は0.7。濡れた道路は0.4で計算されます。
※これはタイヤの状態が良いときの数値です。
タイヤがすり減っていれば、もっと滑りやすくなります。
停止距離。
空走距離 + 制動距離が、「停止距離」です。
ブレーキをかけている間の距離ではなく、危険を察知してから完全に停止するまでの距離です。
停止時間。
停止までの時間も計算できます。
反応時間(秒) + スピード(m/秒) ÷ (9.8 × 摩擦係数)
※9.8は重力加速度。
速度と停止距離(目安)。
速度 | 空走距離 | 制動距離 | 停止距離 |
---|---|---|---|
20km/h | 6m | 3m | 9m |
30km/h | 9m | 6m | 15m |
40km/h | 11m | 11m | 22m |
50km/h | 14m | 18m | 32m |
60km/h | 17m | 27m | 44m |
70km/h | 19m | 39m | 58m |
80km/h | 22m | 54m | 76m |
90km/h | 25m | 68m | 93m |
100km/h | 28m | 84m | 112m |
色々なブレーキテストの結果を見ると、制動距離はもっと短いものが多いです。
ただ、実際の場面ではテストのようにいかないこともあるでしょうから、この余裕を持たせた数値を覚えておくことをおすすめします。
バイクで検索しても よく出てくる数値ですが、これは普通乗用車の目安です。
バイクの場合。
車両ごとにブレーキの保安基準(最低限必要な性能)があります。
保安基準を元に計算すると、車もバイクも停止距離はだいたい同じぐらいとなるので、上の表の数値はバイクでも参考になります。
ただし、バイクは乗り手の重量やブレーキ性能、ブレーキ操作の慣れによる違いが出やすい。
といったことも理解しておくべきでしょう。
順番に説明していきます。
重いほうが止まりにくい。
バイクは車よりも遥かに軽いので、全体の重さに対して「乗り手の体重」の占める割合が大きくなります。
同じバイクで 1人乗りと2人乗りの制動テストをしたところ、
「2人乗りのほうが停止までの距離が長かった」という実験結果があります。
ブレーキ性能など条件が同じであれば、重いほうが止まりにくくなります。

タンデム(2人乗り)のときは、普段より止まりにくくなるので注意してね。
タイヤ、ブレーキ性能による違い。
バイクは車種によって付いているタイヤ、ブレーキが かなり違うことがあります。
ブレーキ性能にも差が出ます。
122kgのバイクより、高性能なタイヤとブレーキを装備した167kgのバイクのほうが短い距離で止まれた。
という実験結果があります。

過信してはいけませんが、高性能なブレーキシステムのバイクは短い距離で停止できる可能性が高いです。
これは実際に乗ったときの感覚とも一致しますね。
ブレーキ性能は年々進化しています。
古いバイクは現代のバイクよりブレーキが効きにくいことがあります。

私は古いベスパに乗っていたことがあるのですが、ブレーキは効きにくかったし、重かったです。
一方で車は、車種や重さの違う15台中14台がほぼ同じような距離で停止している。という実験結果があります。
ファミリーカー・スポーツカー・ミニバン、全て似たような結果となっています。
乗り手による違い。
車はシートベルトで体が固定されていますが、バイクは急ブレーキをかけると体が前にもっていかれます。
バイク自体も前のめりになりますし、フロントフォーク(前のサスペンション)が一気に縮んで性能を発揮しにくくなります。
バイクの動き、体の動きが大きい為 ※ABSが付いていたとしても、初心者が思いきりブレーキをかけ続けるのは難しいことがあります。
初心者や新車でバイクに慣れていないうちは、穏やかな運転を心がけるべきでしょう。
・ABS。
A=アンチロック。B=ブレーキ。S=システム。
ABSはタイヤがロックする(ピタッと止まる)のを防いでくれる装置です。
走行中にタイヤが止まったら、一瞬だけブレーキを緩めてタイヤを回してくれます。
ブレーキをかけ続けタイヤがまた止まれば、また緩めてくれます。
これをもの凄いスピードで繰り返すことでブレーキを強くかけ続けてもタイヤを止めずに減速できます。
停車をスムーズに行う為に、低速では作動しません。
2018年10月から126cc以上の新型車に搭載が義務化されています。
2021年10月から126cc以上の全ての新車に(長年販売されているモデルなどにも)搭載が義務化されました。
・所長から一言 (まとめ)。

よく見る停止距離の表は、車のもの。
でも最低限の数値として参考になる。

古いバイク・2人乗りのときは、より慎重に運転しましょう。
参考文献。
和歌山 利宏. “第7章 ブレーキ”. 図説 バイク工学入門. グランプリ出版, 新装版, 2021, p164-183, ISBN978-4-87687-388-3.
“アンチロック状態などを考慮した制動停止距離”. 安藤和彦, 倉持智明, 寺田 剛, 土木研究センター, https://www.pwrc.or.jp/s-pdf/0910-p052-055.pdf, (参照2023-04-19)
“軽いバイクと重量級バイクはどう違う”. BikeBros マガジンズ, https://www.bikebros.co.jp/ridetech/index.php?e=31, (参照2023-04-18)
“交通参加者としての二輪車”. 長江啓泰, 国際交通安全学会, https://www.iatss.or.jp/common/pdf/publication/iatss-review/09-2-04.pdf, (参照2023-04-19)
“速度による停止距離”. 警察庁, https://www.npa.go.jp/koutsuu/kikaku/regulation_wg/teigen/siryou2.pdf, (参照2023-04-19)
“タイヤのスリップ”. 平尾榮滋, 自動車技術会, https://www.jsae.or.jp/~dat1/mr/img_pdf/lr20018012.pdf, (参照2023-04-19)
“平 忠彦のタンデムツーリング・レッスン”. 日本二輪車普及安全協会, https://www.jmpsa.or.jp/joy/enjoy/lesson/lesson_04.html, (参照2023-04-18)
“普通乗用車運転者の緊急時の制動動作と制動距離”. 松下 寛, 松永勝也, 日本人間工学会, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jje1965/37/5/37_5_219/_pdf, (参照2023-04-19)
“ブレーキ性能試験結果一覧”. 自動車総合安全情報, 国土交通省, https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/02assessment/car_h19/list_brake.html, (参照2023-04-18)