クロスプレーンはヤマハが開発した独自の直列4気筒エンジン。
クランクシャフトがクロス(十字)の形だから、正式名称は「クロスプレーン型クランクシャフト」

ヤマハのYZF-R1に搭載されていて、レジェンド レーサーのロッシが褒めてたやつだよね。

スズキとカワサキのレース用車両にも同じような構造のエンジンが採用されたことがあります。

今回は、ヤマハが公開している「簡潔すぎてちょっと難しい説明」を、なるべく分かりやすく解説します。
※市販車の情報です。MotoGPのレース用車両は、仕組みが違う可能性があります。
目次をクリック・タップで移動できます。
クロスプレーンの意味

イラストの赤色部分は、単純化したクランクシャフト(とクランクピン)
クランクシャフトを真横から見て平面(プレーン)で表すと、十字(クロス)になるのがクロスプレーン。
イラスト下側は一般的な直列4気筒。
真横から見ると一直線となり、クロスプレーンと比較するときはフラットプレーンと呼んで区別します。
※フラットプレーンはシングルプレーン。クロスプレーンはダブルプレーンと呼ぶ場合もあります。
クロスプレーンとフラットプレーンの違い
まずは違いについて簡単な まとめ。
詳しい説明は後ほど。
| クロスプレーン | |
|---|---|
| 一次振動 | ○ 打ち消せる |
| 二次振動 | ○ 打ち消せる |
| 偶力による振動 | × 発生する |
| 燃焼間隔 | 不等間隔爆発 270°→180°→90°→180° |
| 点火順序 | 1-3-2-4 |
| フラットプレーン | |
|---|---|
| 一次振動 | ○ 打ち消せる |
| 二次振動 | × 発生する |
| 偶力による振動 | ○ 発生しない |
| 燃焼間隔 | 一定間隔 180°→180°→180°→180° |
| 点火順序 | 1-3-4-2 まれに、1-2-4-3 |
振動について

GIFアニメーション作者:MichaelFrey
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Reihenmotor_Vier_Zylindermotor_1-3-4-2.gif
エンジンの振動には色々な要因がありますが、特に大きな振動を発生させるのは、上下に動く「ピストン」の慣性力で発生する振動です。
ピストンによる振動で まず問題となってくるのは、「一次振動」「二次振動」と呼ばれる2つの振動です。
一次振動

ピストンが上下に動くときの慣性力(一次慣性力)による振動で、360度周期の周波数として表されます。
一次振動はかなり大きな振動です。
一次振動が発生するエンジン形式では、軽減する、又は打ち消す為の部品(バランスウエイトやバランスシャフト)が必須です。
一般的な直列4気筒(フラットプレーン)の一次振動

「1気筒目と4気筒目」、そして「2気筒目と3気筒目」この二組には 180度の角度がついています。
360度周期の一次慣性力(一次振動)に、180度ズラした一次慣性力を足すと、逆向きに重なって打ち消し合うことが出来ます。

赤色が 1・4気筒目。
緑色が 2・3気筒目。というイメージ。

「1・4気筒目」と「2・3気筒目」が互い違いに動いて振動を打ち消し合う。
と、単純に考えたほうが分かりやすいかもしれまん。
直列4気筒「クロスプレーン」の一次振動

直列4気筒のクロスプレーンは、
「直列2気筒270度クランク」を、角度を180度 変えて繋げたものと考えることが出来ます。
直列2気筒270度クランクについて詳しくは、こちらを参照してください。
直列2気筒270度クランクの一次振動イメージ図↓

赤色が 1気筒目。
緑色が2気筒目。
分かりやすく270度ズラして表記。
直列2気筒270度クランクの場合、一次振動は逆向きには重ならず発生してしまいます。
しかし、180度の角度をつけたものを加えると↓

- 赤色と緑色が、直列2気筒270度クランクの周波数
- 青色と黒色が、180度ズラした直列2気筒270度クランクの周波数
赤と青が逆向きに重なり打ち消し合い、緑と黒も逆向きに重なって打ち消し合います。
・一次振動 まとめ。
クロスプレーン、一般的なフラットプレーン、両方とも一次振動を打ち消すことが出来る。
二次振動

ピストンの速度変化で生まれる慣性力(二次慣性力)による振動です。
180度周期の周波数で表されます。
ピストンの上下運動は、コネクティングロッドによって回転運動に変わります。
このコネクティングロッドの動きのせいで、ピストンの速度に変化が生じます。
具体的には、ピストンは上側では早く動き、下側では遅くなります。
速度が変化することで発生する振動は、バイクで走行中にアクセルを開けたり閉じたりすると、体が後ろに持っていかれたり、前に持っていかれたりする様子をイメージすれば分かりやすいと思います。
二次振動は、一次振動の4分の1ぐらいの大きさです。
ただ、排気量が増えればピストンも大きくなって振動が増えます。軽減する、又は打ち消す為の部品(バランスウエイトやバランスシャフト)が必要です。
一般的な直列4気筒(フラットプレーン)の二次振動

「1気筒目と4気筒目」、「2気筒目と3気筒目」この二組の間に180度の角度がついています。
180度周期の二次振動に、180度ズラしたものを足しても、同じ形なので打ち消すことは出来ません。

青色が1、4気筒目。
緑色が2、3気筒目。というイメージ。

二次振動は、ピストンの速度が変化することによる振動の為、
ピストンが互い違いに動くからといって打ち消せません。
4気筒は排気量が大きい車種が多い為、軽減する、又は打ち消す部品(二次振動用のバランスシャフトなど)が必要です。
直列4気筒「クロスプレーン」の二次振動

直列4気筒クロスプレーンは、
直列2気筒270度クランクを、角度を180度 変えて繋げたものと考えることが出来ます。
直列2気筒270度クランクの二次振動↓

青色が 1気筒目。
緑色が 2気筒目。というイメージ。
逆向きに重なりあって、打ち消すことが出来ます。
二次振動が発生しない直列2気筒270度クランクを2つ繋げても、とうぜん二次振動は発生しません。
・二次振動 まとめ。
一般的なフラットプレーンは二次振動が発生する。
クロスプレーンは、二次振動を打ち消すことが出来る。
ヤマハの説明
ちなみに、ヤマハの公式サイトでは、二次慣性力がクランクシャフトの回転に影響を与えている様子を「慣性トルク」「トルク変動」と呼んで説明しています。
しかし、簡潔にまとめ過ぎていて ちょっと分かりにくいです。
参考リンク
https://global.yamaha-motor.com/jp/design_technology/technical/publish/pdf/browse/45ss01.pdf
https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/yamaha-motor-life/2011/11/post-76.html
https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/yamaha-motor-life/2014/11/post-224.html
・ざっくり解説。

ピストンの慣性力は、コネクティングロッドを介して「クランクピン」に伝わります。
クランクピンに伝わる力に、一次慣性力や二次慣性力のような「力の増減」があると、クランクシャフトの回転にもムラが出やすくなります。
クロスプレーンは、一次振動(一次慣性力)も、二次振動(二次慣性力)も発生しないので、クランクピンに伝わる力にムラがほとんどなく、クランクシャフトの回転に与える影響も少なくなります。
クランクシャフトの回転が最終的にタイヤを回転させますから、影響は少ないほうが望ましいと言えます。
アクセルの開け閉めにピストンの慣性力の影響がほとんどないということは、アクセルの動きに対して素直に反応するエンジンとなります。
偶力による振動

違う向きに発生している力の「位置のズレ」によって起こる振動。
イラストのように、片方のピストンが上昇しているときに、離れた位置のピストンが下降している。といったことが原因で発生します。
一般的な直列4気筒(フラットプレーン)の偶力振動

一見、偶力振動が発生しそうですが、
上向きの慣性力の合力(複数の力を合成したもの。大きい赤矢印)と、下向きの慣性力の合力(大きい青矢印)の位置にズレがない為、偶力振動は発生しません。
直列4気筒「クロスプレーン」の偶力振動

上向きの慣性力と下向きの慣性力にズレがある為、偶力振動が発生します。
偶力振動を軽減するバランスシャフトや、打ち消す為のバランスウエイトとバランスシャフトなどが必要です。
ヤマハは偶力用のバランスシャフト(バランサー)を設置しているようです。
参考リンク
https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/yamaha-motor-life/2011/11/post-76.html
燃焼間隔

ほとんどのガソリンエンジンに採用されている4ストロークエンジンは、
「吸入」「圧縮」「燃焼」「排気」
という4つの工程を、クランクシャフトが2回転(720度)する間に行います。
・単気筒の場合、720度に1回の燃焼。
・2気筒は、720度に2回の燃焼。
・3気筒は、720度に3回の燃焼。
・4気筒は、720度に4回の燃焼。
と、気筒数の数だけ燃焼が行なわれます。
単気筒の燃焼間隔は、720°→720°→720°・・・
と、720度ごとの一定間隔ですが、2気筒以上は燃焼の間隔を変えることが出来ます。
例。
直列2気筒180度クランク:180°→540°→180°→540°・・・
直列2気筒270度クランク:270°→450°→270°→450°・・・
燃焼間隔によって生まれる特徴
燃焼工程は、「爆発」とも呼ばれるほどで、音や振動が発生します。
燃焼間隔が綺麗に一定間隔だと、スムーズに回転する穏やかな乗り心地のエンジンとなります。
回転がスムーズだと回転数の上限を上げやすくなる(最高速度を上げやすくなる)という特徴もあります。
燃焼間隔がバラつくと、独特の振動となります。
ただ、バイクの場合は振動を「鼓動感」などと呼び、好意的に捉える場合もあります。
また、燃焼間隔が適度にバラける(※不等間隔爆発)と、カーブでタイヤのグリップ感を得やすい。という効果が生まれます。
実際のレースでも大きな効果が出ており、様々な車種に採用されています。
※具体的には270度の間隔が入るエンジンを指すことが多い。
一般的な直列4気筒(フラットプレーン)の燃焼間隔

・直列4気筒フラットプレーンの燃焼間隔。
燃焼は 0°→180°→360°→540°で起こり、燃焼間隔は、180°→180°→180°・・・
180度周期の一定間隔で、スムーズに回転して回転数を上げやすい(最高速度を上げやすい)エンジンになります。
詳しくは、こちらをご覧ください。
直列4気筒「クロスプレーン」の燃焼間隔

分かりやすくする為に、直列2気筒270度クランクを180度の角度をつけて繋げたものと考えます。
直列2気筒270度クランクの燃焼間隔。
上側の爆発アイコンが1気筒目、下側が2気筒目↓

・直列2気筒270度クランク。
270°→450°→270°→450°・・・を繰り返します。
タイヤのグリップ感を得やすい不等間隔爆発です。
これに180度の角度をつけたものを つけ足すと↓

・直列4気筒クロスプレーン。
180°→90°→180°→270°→180°→90°→180°→270°・・・
不等間隔爆発となり、タイヤのグリップ感を得やすいエンジンとなります。
・燃焼間隔まとめ。
フラットプレーン。
180度の一定間隔。スムーズに回転して最高速度を上げやすいエンジン。
クロスプレーン。
180°→90°→180°→270°→180°→90°→180°→270°・・・
不等間隔爆発。カーブでグリップ感を感じやすいエンジン。
点火順序(燃焼の順番)

- 1気筒目は、1
- 2気筒目は、2
- 3気筒目は、3
- 4気筒目は、4
と、順番に数字を付けて、「1-3-4-2」といった書き方で点火順序を表現します。
点火順序はクランクシャフトの角度である程度 決まっています。
※2気筒は交互に点火するしかないですが、3気筒以上は点火順序を数パターンから選ぶことが出来ます。
「排気」「吸入」工程が隣り合う気筒で連続して起こったりすると、排気や吸気が妨げられるおそれが出てきます(排気干渉、吸気干渉)
ただしこれは、排気管の形状を工夫することによって防げます。
点火順序は、バイクのキャラクターに合った気筒数、クランクの角度、排気管の形状などを考えて最適なものが選ばれます。
一般的な直列4気筒(フラットプレーン)の点火順序
標準的なのは「1-3-4-2」、まれに「1-2-4-3」
※2気筒目と3気筒目はクランクシャフトの角度が同じ(0度、又は360度)なので、順番を逆に(360度変えることが)出来る。
※1・4気筒目も逆に出来ますが、先に燃焼するほうが「1」です。
| 1気筒目 | 2気筒目 | 3気筒目 | 4気筒目 |
|---|---|---|---|
| 燃焼:0°(720°) | 排気:0°(720°) | 圧縮:0°(720°) | 吸入:0°(720°) |
| 排気:180° | 吸入:180° | 燃焼:180° | 圧縮:180° |
| 吸入:360° | 圧縮:360° | 排気:360° | 燃焼:360° |
| 圧縮:540° | 燃焼:540° | 吸入:540° | 排気:540° |
※1気筒目を基準に、他の気筒の燃焼タイミングを表した表。
直列4気筒「クロスプレーン」の点火順序
「1-3-2-4」
| 1気筒目 | 2気筒目 | 3気筒目 | 4気筒目 |
|---|---|---|---|
| 燃焼:0°(720°) | 排気:0°(720°) | ||
| 吸入:90° | 圧縮:90° | ||
| 排気:180° | 吸入:180° | ||
| 圧縮:270° | 燃焼:270° | ||
| 吸入:360° | 圧縮:360° | ||
| 燃焼:450° | 排気:450° | ||
| 圧縮:540° | 燃焼:540° | ||
| 排気:630° | 吸入:630° |
※1気筒目を基準に、他の気筒の燃焼タイミングを表した表。
2気筒目と3気筒目を逆にした「1-2-3-4」など他のパターンも考えられますが、ヤマハは「1-3-2-4」を採用しています。
クランクピン(クランクシャフト)の角度

ヤマハが公開しているクランクシャフトの写真や解説動画では、
・1気筒目と2気筒目が90度
・2気筒目と3気筒目が180度
・3気筒目と4気筒目が90度
(・4気筒目と1気筒目が180度)
となっています。
参考リンク
https://global.yamaha-motor.com/jp/design_technology/technical/publish/pdf/browse/45ss01.pdf
https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/owner-support/mc-tech/cp4
画像の利用が可能な英語版Wikipediaの画像を載せておきます。

作者:Andy Dingley
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ford_V8_crankshaft_(Autocar_Handbook,_13th_ed,_1935).jpg
1・4気筒目のクランクピンの位置は横向きで、お互いの角度180度。
このとき2・3気筒目は上下方向で、お互いの角度は180度。
おまけの余談↓
ヤマハの3気筒クロスプレーンコンセプト
あくまで、クロスプレーン「コンセプト」であって、クランクシャフトはクロス(十字)ではありません。
※そもそも 3つでは「ト」みたいな形にしかならず、十字になりません。
一般的な直列3気筒と同じ120度づつの等間隔です。
詳しくはこちらをご覧ください。
・なぜクロスプレーンコンセプト?
直列3気筒は、一次振動も二次振動も打ち消し、偶力振動が残るところが、直列4気筒クロスプレーンと同じです。
今回の関連記事。別タブで開きます。




